FUJIBO JOURNAL

グローバルニッチトップをひた走る二人の博士達
―富士紡ホールディングスを支える高度人財―

2024.03.18

働き方

富士紡ホールディングス株式会社は、高い有機材料技術によって製品を製造しています。中でも超精密加工用研磨材は、スマートフォンやタブレット端末などのような精密機器の製造に欠かせない材料として、グローバルトップのポジションを獲得しています。今回は、フジボウ愛媛株式会社において研磨材の開発に携わるK氏とT氏にお話を伺いました。

T 氏
フジボウ愛媛株式会社 技術開発部技術開発課課長。2011年入社。1982年生まれ。京都大学大学院理学研究科化学専攻博士課程修了。博士(理学)。

K氏
フジボウ愛媛株式会社 取締役副社長執行役員 / 技術開発部部長。1982年入社。1956年生まれ。大阪府立大学大学院工学研究科博士課程修了。博士(工学)。

― 現在の業務について教えてください

T氏:富士紡ホールディングスの子会社であるフジボウ愛媛株式会社に所属しています。弊社は、半導体などの様々な部品を精密に研磨するための材料を製造・販売しており、私は研磨材の開発を担当しております。今年で入社12年目ですが、約2年前から課長を任されており、現在は3つのグループのマネジメントも行っています。

K氏:同じくフジボウ愛媛で、技術開発部長としてマネジメント業務を中心に行っています。今年で入社41年目になりますので、Tさんとは入社歴が30年ほど違いますね。

― 入社した経緯を教えてください

T氏:学生の時は、理学研究科の化学専攻にいました。研究テーマは、タンパク質を対象とした様々な分析方法の開発も含め、化学反応のプロセスを研究していました。専攻は化学でしたが、昔から数学が好きで、化学の中でも数学や数式を使う分野である物理化学の研究室を選びました。研究を進めていき、大学院に進学するタイミングで研究対象を生体高分子に広げました。

実は、企業で研究したいという思いはあまり強くなかったのです。学生時代はずっと研究をしてきたので、それよりも「新しいモノづくりに携わってみたい」という気持ちが強かったです。就職活動は、ずいぶん遅い時期に開始したのですが、ほとんどの企業が採用活動を終了している中で、まだ募集をしている弊社に運良く巡り合えた形になります。

K氏:1982年に東京農工大学大学院の工学研究科を修了して、入社しました。私の就職活動の話は、時代が古いので参考にならないと思いますが…私の時代は、研究室の指導教員が就職先を全部決めていました。

― 今は、大学院まで行っていると、雑務をやることに対してプライドが許さないという方も一部にいらっしゃいますね

K氏:当時は「汚れ仕事も厭わない、それが当たり前だ」という時代でしたから、大学院を出たからといってエリート意識は全くなかったですね。私は40歳の時に博士号を取ったのですが、ちょうど社会人博士の制度が始まった頃でした。この時は会社から指示されたのではなく、研究室を探して先生と飲みに行ったりして、自分で人間関係を築いてから通いました。

― 今後のキャリアの展望を教えてください

T氏:業務としては会社から言われたことを何でもやるつもりですが、入社して10年程ずっと同じことをやり続けてきたので、個人的には他のことにもチャレンジしてみたいという気持ちもありますね。

― 他の仕事にチャレンジできる環境はあるのでしょうか

K氏:開発部署から製造や営業の部署などに異動することはあります。開発は重要な仕事ですが、弊社はメーカーなので、製造の部分についてもよく知っておく必要があります。営業に関しても同様に、技術営業的な要素が強いので製造工程や商品について知らなければ営業ができません。ですので、会社の中でジョブローテーションを行う環境を整備しています。

製造、品質保証、開発、営業、資材購入といった事務部門なども含めて、技術者が1つのところに留まらないようにローテーションを行います。自分の仕事を限定してしまうよりも、むしろ自分のテリトリーから外を幅広く志向する傾向を持つ方が成長できますし、我々としてもそのような積極性は大事にしたいと考えています。

― どのような人が貴社で活躍できると感じますか

K氏:自ら考えて動ける方は総じて活躍されていますし、そのような方を求めています。小さい会社であるため、自分のやりたいことだけをやるのでは仕事が進みません。必ず他部署や外部との折衝や、人間関係を築くことが必要になります。例えば、外部とのやりとりでもメールだけで済ませる傾向が強いですが、そうではなく「仕事付き合い以上、友達付き合い未満」のような人間関係を築けるバイタリティがあったり、そのような積極性があることが望ましいですね。自分の周りに壁を作らずに、自分で提案して動いていける人が伸びていく傾向があります。もちろん、このようなことが今は苦手な人でも、働いているうちに自然と身についていくものですから、積極的に動いていこうという志向さえあれば大歓迎です。

T氏:弊社はトップダウンの部分ももちろんありますが、基本的に「自分の考えたことをやってみる」という社風です。期限や目標は設定されますが、そこまでの過程は自分で考えて行動することが割と許容される環境なので、「自分で物事を考えて進められる人」が来て欲しいと思います。そのような人であれば、どのような仕事もやり遂げられますし、それこそ博士課程で研究に没頭している人は必ずできると思います。企業なのでお金や時間の制約は当然でてきますが、その辺りの感覚は働きながら磨かれていきます。

― 富士紡ホールディングスは、今後どのように展開していくのでしょうか

T氏:富士紡ホールディングスには様々な事業があり、それぞれがニッチな領域に取り込んでいます。我々が所属するフジボウ愛媛も、これまでのように他社にないことに取り組んで行くことは基本としながら、それに加えて半導体市場の拡大に合わせて事業を進めていく必要があると思います。

K氏:会社としてはシリコンや半導体分野を狙っています。製品に対して求められる信頼性が非常に高い分野であるため、高度化する要求をキャッチアップすることが必要です。そのために、多額の設備投資や高度人財の採用に力をいれています。まずは、半導体分野で世界の名だたる企業にキャッチアップし、ニッチな分野でさらなる高利益率を求めていくことが重要だと考えています。利益を求めるというと少し聞こえが良くないかもしれませんが、それによって開発や従業員にリターンができますし、全ての企業活動の源泉になります。それらの活動を通してグローバルニッチとして強固な立場を作っていこう、と会社全体で進めています。

また、昨今重要視されているサステイナビリティの観点からお話しますと、我々は使うとどうしてもゴミが出てしまう消耗材を生産している、という現実があります。「性能」と「環境への配慮」の両側面を満たすことは、技術的にとてもハードルが高く、性能が低くなってしまったり、使い勝手が悪くなってしまうなど、トレードオフの関係にあります。その分、技術的には大変チャレンジングな課題であり、長期的な取り組みになると考えられますので、是非このような観点に興味のある若い方々に、積極的にチャレンジ頂きたいと考えています。イノベーションは常にチャレンジングな課題から生まれるものであると感じています。

― 読者へメッセージをお願いします

K氏:博士課程に通っていた頃に、教授から「博士の知識は深いけど、博士は博(ひろ)いと書くんですよ」と言われたことが、今でも心に残っています。自分の専門性を深く追求することも重要ですが、それだけに固執することなく幅広い仕事や知識を取りこんで行く志向を皆さんにも持ってほしいです。

T氏:今の若い方々は非常にスマートでいらっしゃる方が多いのですが、個人的にはガッツのある方、壁に直面した時も愚直にやり続けてみる方も好ましく感じます。少しでも弊社に興味のある方は、ぜひ選考を受けてみて下さい。お待ちしています。

*本記事は、株式会社アカリクが発行する「大学院生・研究者のためのキャリアマガジン Acaric Journal」のWEB公開記事より転載しております。

出典: アカリク